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アドルフに告ぐ

2005 - 11/19 [Sat] - 00:47

アドルフに告ぐ(第1巻)


作画:手塚治虫
連載:『週刊文春』(1983年1月6日号〜1985年5月30日号)
単行本:1〜5巻(文春文庫ビジュアル版)
属性:ドイツ近現代史、日本近現代史、ヒトラー、ナチス、ユダヤ、第二次世界大戦
登場人物:アドルフ・ヒトラー、アドルフ・アイヒマン、ヨーゼフ・ゲッベルス、ヘルマン・ゲーリング、エヴァ・ブラウン、リヒャルト・ゾルゲ、土肥原賢二、東条英機、フランクリン・ローズヴェルト、エルヴィン・ロンメル、オイゲン・オットー、マルティン・ボルマン 

 戦前の日本、そしてドイツを舞台に、三人の「アドルフ」の数奇な運命をミステリーとサスペンスを交えながら描いた、後期手塚治虫の傑作である。三人のアドルフとは、ドイツ人の父と日本人の母のハーフであるアドルフ・カウフマンと、在日ユダヤ人のアドルフ・カミル、そしてあのアドルフ・ヒットラーである。

 
物語はもう一人の主人公である日本人の峠草平の弟が、ベルリン・オリンピック開催中のベルリンで変死を遂げ、草平がその秘密を探り出そうとするところからはじまる。草平の弟は、ヒットラーの出生に関する秘密文書を手に入れたことで殺されたのだ。この秘密文書は日本に運ばれ峠草平の手に渡るが、そのため峠はナチスのゲシュタポや日本の特高警察に追われることとなる。さらに文書の行方は二転三転し、そして時代は破局へと突き進む。さらにヒトラーの出生の秘密文書には、二人のアドルフも深くかかわってくることになる。三人アドルフの運命はどうなるのか?「アドルフに告ぐ」とはどういうことか?

 この作品は、第二次世界大戦を同盟国として戦った二つの国、日本とドイツが舞台となる。民族としては日本人、ドイツ人、ユダヤ人が主な登場人物だが、作者はこの三者をただ配置するのではなく、複雑な関係性をもたせている。カウフマンはドイツ人の父と日本人の母の間で日本に生まれ、後にナチスの青年将校になり、純血のアーリア人でないことを悩みながら、最後にはユダヤ娘に恋をする。カミルはユダヤ人だが、彼もまた日本に生まれ、最後には日本で隣組の組長となり防空・防火活動を行なう。そもそも作中におけるヒットラーの出生の秘密がそうだ。このように登場人物間にあえて複雑な関係性をもたせることで、作者は「民族」とは何か、「民族」をめぐって人が殺しあうとはどういうことか、それを問いかけているように思われる。

 ベルリンオリンピックや収容所、ゾルゲ事件、パリ陥落、空襲など実際に起こった出来事が登場人物と関連しながら作中で描かれており、登場人物たちが活躍しているのが年表(章末にたびたび挿入される)のどの場所に当たるのかを考えながら読むのもいいだろう。三人のアドルフや峠たちは、まぎれもない「歴史」の中を生きたのである。

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